チェーホフの短編小説「たわむれ」を読む

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チェーホフ作品の特徴

チェーホフ作品の特徴


チェーホフの作品としては、「かもめ」「桜の園」「ワーニャおじさん」「三人姉妹」などの戯曲作品が主に親しまれていますが、小説の分野においても戯曲に劣らぬ名作を数多く残しました。

チェーホフ作品の大きな特徴は、「ドラマのないドラマ」と言われています。作中で何一つ事件らしい事件がおきません。登場人物たちの日常生活、会話とそれぞれの考えや人間関係が作品の内容となっています。

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登場人物たちの口からは現実の生活への幻滅と未来の美しい生活への希望が語られます。

穏やかといわれた人柄そのままにチェーホフの作品はなにかの観念や思想を声高に主張するということがありません。

もっとも表面的に指摘される点は、チェーホフの作中人物は憂鬱、哀愁、ペシミズムや絶望にとらわれている、という部分です。

これを捉えて、一昔前の批評家シェストフはチェーホフを「絶望の詩人」と呼び、チェーホフについて「さまざまな人々の様々な希望を抹殺することに没頭した。彼の作品の主人公たちは希望も、行方も閉ざされ、なにかをする能力すらない。もはや壁に頭をぶつけることしか残されていない」と語っています。

しかし、現在ではシェストフの見方はチェーホフを一面的にしか理解していないものとしてあまり賛同する人はいません。

チェーホフ作品の特徴2

たしかに、登場人物たちは人生を生きていくことの喜びとつらさを抱えています。「ワーニャ伯父さん」のなかにはこんな一見奇妙な場面があります。

エレーナ「いいお天気だこと、今日は、、、暑くもないし、、、」
(間)
ワーニャ「こんな天気に首をくくったらさぞ良いだろうなぁ」


この言葉を引いて「越境する作家チェーホフ」の著者牧原純氏はこう述べています。

「そのさりげないひと言ふた言のなかに、悲劇と喜劇、天国と地獄、平安と絶望、オプティミズムとニヒリズムが込められている。それは幾千万の説明にまさるチェーホフ独特の、あるいは、彼にとって真実を伝える一番的確な表現なのだろう」


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絶望や憂鬱がチェーホフの描く人物には満ちています。しかし同時に、彼らはか細く壊れそうなものではあっても真実や美への憧れ希望が、生きていくための力になることを知っています。チェーホフは、先ほど引用した「ワーニャ伯父さん」にも未来にたいする希望を求める感動的なエンディングをもってきています。


松下裕氏はチェーホフの特徴を「自由の感覚」と名づけてこう書いています。

「チェーホフの生きた十九世紀後半から二十世紀初めにかけてのロシア社会は息苦しい専制国家で、彼の作品の登場人物たちは何より「自由」を渇望してあえいでいる。チェーホフ自身は、ロシアの専制の根底からの変革とともに、身近なところからの生活や制度の改造を望んでいる。そのことは、たとえば「中二階のある家」の男女の主人公の葛藤に現れている。自由を希求する人びとの意識こそ、人間のあるべき本来の姿として、後世のわれわれにも訴えかける。この自由の渇望こそがチェーホフ文学の本質だろう。チェーホフが描き続けたロシアの人々の姿をぬきにしては、この時代のロシアを正確にとらえることはできないと言われている。チェーホフの希求は、作品中にみられる「自主性」「個人の自由の感覚」ということばに凝縮している。」

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